論文の書き方(基礎編)

MatchofTheDay2007-04-14



課題論文を楽に上手に書くコツは、ずばり授業にあります。今日は課題論文の書き方(内容とコツ)について、自分の経験から少しお話しします。続く応用編では、論文にあるパターンについてお話しする予定です。修士論文(Dissertation)の書き方については、項を改めてお話しする予定ですが、似通ったところがあるのでお読みいただけるとありがたいです。


なお、ここで想定している課題論文(Essayと言われることが多いです。)とは、単語数1,500〜3,000語程度の、授業に付随した課題として出される論文です。また、ここでの内容は、社会科学系の教科のみに当てはまり、理系や法律系のものについては当てはまらないかもしれません。悪しからず。


あるテーマに関する課題論文に求められているものとは何か。端的に言うとすれば、それはそのテーマでの論争の中身(argument)を知っていること、そしてそれらの長所・短所について理由立てて説明できること、だと思います。


短めの課題論文であれば、書くべきテーマは予め教官から与えられます。そこで掲げられているテーマには、いずれも学問的な論争が含まれています。課題論文を書く場合、まず第一の条件として、その論争における有力な学説の内容とその主張者(及びその文献)について、必ず触れなければなりません。有力な学説はたいてい2つ以上ですので、それらを漏れなく盛り込む必要があります。例えば、αという説があって、その中身は○○であり、Aという学者がaという本でこう主張している、一方Bという学者はbという本でβという説を主張し、α説を批判した、というような感じになります。


さらに、第二の条件として、それらの説の長所・短所について比較検討し、きちんと筋道立てて説明する必要があります。上記の例を続けると、α説はこの点で優れているがこの点で問題がある、一方β説はこの点でα説の限界を克服しているがこのような難点がある、というようなことを、それぞれに理由づけして説明します。


そして結論ですが、どちらか一方の説を採るべき、と言えるのであればそれを言うべきですが、学問的な論争は、たいていは一長一短があって優劣がつけがたいケースが多いですので、「一長一短があって優劣がつけがたい」ことをきちんと説明できればそれで十分です。


具体例を。社会政策(Social Policy)の例で恐縮です。
貧困(poverty)というテーマについて考える場合、貧困というものとらえ方について昔から論争がなされています。
絶対的貧困(absolute poverty)と相対的貧困(relative poverty)という概念があり、前者についてはRowntreeという人が自分でその内容を決め、それに則って19世紀末に実地調査をしました。後者については、Townsendが主張し、deprivation indexというものを公表しましたが、Piachaudがそのindexの妥当性を批判しました。
絶対的貧困という概念は、人間の生存に必要なものの不足、と定義していて明快です。しかし、具体的に何が必要なものなのかは、社会文化が与える影響が大きく(米か小麦か、等)、また物資のみならず健康や人権も含めるべきか、等の議論があって、一様には決められません。
相対的貧困という概念は、そのような社会文化による相違を認めますが、それを定義するには、個々の社会で通常得られるもの・行いうるものとは何かを決めなければならず、やはり困難がつきまといます。
これらの議論を踏まえると、自分の結論としては、人は社会の中で生きるものである以上、社会政策においては相対的貧困という考え方をとるべきですが、その内容をより精緻化していく努力が必要、というものになります。ちなみに、今のイギリス政府が採用している貧困の測り方(国民所得の中央値の60%の額以下(less than 60% of median income))についての話を、このどこかに盛り込んでもいいかもしれません。


このような内容をどこから仕入れるか。それは授業と参考文献です。論文に盛り込むべき有力な学説は、授業で必ず扱われています。なので、論文には、授業で触れられた学説や人について説明してやればいいことになります。また、優劣の判断方法(視点・切り口)についても、授業で教官が説明しているはずですので、それを参考にしましょう。必ずしも同調する必要はありませんが、そのような判断方法を盛り込むことは重要です。授業で扱われる中身については、かつてお話ししたとおり、参考文献に書かれています。
http://d.hatena.ne.jp/MatchofTheDay/20070404
参考文献を読んで授業に臨み、教官が話す自分なりの視点・切り口について頑張ってメモをとりましょう。これはテーマ選びにも影響します。与えられたテーマが複数あってその中から選べる場合は、授業が一番分かったものを優先しましょう。


おまけですが、論文の見栄えを良くするコツは、学者の名前や説の名称、文献名等の固有名詞をふんだんに盛り込むことです。こうすると「自分はきちんと文献を読んで勉強したよ」とアピールできます。


応用編(論文の「パターン」等)については近日中にお話しします。