イギリスの医療システム(NHS)

MatchofTheDay2007-04-28



イギリスでは税金で医療を行うシステム(NHS)が発達し、留学生でも医療を無料で受けられますが、あまり期待できません。今日はイギリスの医療事情についてお話しします。


イギリスはNHS(National Health Service)という仕組みにより、税金で医療費をまかなっています。税金を財源とする医療費は、地域で医療を担うNHSファンド(NHS Fund)に分配され、それにより医療機関が運営されているので、診療を受けても個人負担は発生しません。つまり、日本のように健保や国保に入って毎月保険料を払ったり、病院の窓口で医療費の自己負担分を払ったりする必要はないのです。薬剤費は自己負担になっており、処方せん(prescript)をもらったらそれを薬局に持ち込み、処方してもらった薬剤を買います。これは日本と仕組みが似ています。NHSの医療を受ける資格は、イギリスに3ヶ月以上滞在する見込みがあることのみで、留学生でもOKです。まとめると、イギリスで医療を受ける際には薬剤費以外のお金(救急車の費用も)はかからないことになります。


しかし、大きな問題があります。それは待たされることです。まず、医療を受ける仕組みとして、予め地域の一般医(GP: general practitioner)に登録することが必要ですが、専門的な治療を受ける場合には、登録した一般医の診察を始めに受け、紹介状をもらわないといけないことになっています。救急でない限りは、どんなに症状が深刻でも、一般医の診察を待つことになります。また、登録した一般医の診察でなければならず、どこの一般医でもいいわけでもありません。一般医の診察は24時間というわけではなく、また予約も埋まっていることが多いため、1週間位待たされることもしばしばのようです。さらに、紹介状をもらって専門的な診療を受ける際にも、長いこと待たされます。紹介された医療機関に連絡しても、ウェイティングリスト(waiting list)に掲載されるだけで、すぐ診療を受けられるわけではなく、順番待ちをさせられます。例を挙げると、ロンドンの大学の教授は、X線CTを受けるために3週間待たされ、結果を聞くのに2週間まち、さらにMRIを受けろと言われてまた3週間待ちした、とおっしゃってました。語学学校の先生は、左小指の痺れを診察してもらう予約が5週間先にしか入らなかったそうです。


医療を無料で効率よく行うために、一般的な診察でスクリーニングを行ったり、患者の治療順位を決めて治療したりすることは、決して意味がないことではありません。このようなシステムが悪いとは言いませんが、でも待たされる患者にすれば、あまり納得がいくものではないと思います。特に、日本のように、いつでもどこでも診察を受けられる(最近は紹介状が求められるケースが多いようですが)、という仕組みに慣れてしまうと、イギリスの医療システムはかなり奇異なものに映ります。このような状況で国民はよく我慢していられるな、とちょっと疑問に思ったりもします。体が丈夫なためでしょうか。元々あまり風邪など引かないようですし。


このような医療システムを持つイギリスですが、自分でお金を払うのであれば、比較的早く診療を受けられます。この国のリッチな人々はみな自前の医療保険(private health insurance)に入っていて、自由診療の高い医療費をそれでまかなっているそうです。留学する皆様にも、日本の海外旅行傷害保険に加入してからイギリスに来ることをお勧めします。海外旅行傷害保険については、日を改めてお話しします(渡航前の準備:海外旅行傷害保険に入る」


海外旅行傷害保険への加入の如何に関わらず、イギリスに渡航して住まいが決まったら、すぐNHSに登録しましょう。大学によっては自ら一般医を雇っているところもあり、大学の近辺に住むのであればそれに登録することが可能です(ロンドンの大学もリーズの大学もそうでした)。そうでない場合でも、大学は留学生向けに医療関係の情報を提供してくれますので、ウェブサイトを調べたり問い合わせたりしてみてください。NHS登録の際は簡単な問診が行われます。身長・体重や既往歴のほか、予防注射の経験についても尋ねられます。特に三種混合ワクチン(MMR)や髄膜炎(meningitis)、おたふくかぜ(mumps)等は、NHS登録の条件になっているようで、必ず尋ねられます。もし記録があるのであれば、持参すると役に立ちます。記録がなかったりいつ受けたか忘れたりしている場合でも、その一般医が注射をしてくれて登録が可能になったりします。また、髄膜炎は、日本では少なくても欧米では多いそうで、イギリスで接種を受けることも有意義なようです。大学が無料でやっているような場合は、接種を受けてもいいかもしれません。


NHSに登録することの最大のメリットは、救急車が使えることと急患を診てくれることです。一般医に登録し、NHS番号をもらっておけば、急な容態の悪化で救急車を呼んでも(ちなみに番号は999。警察や消防も同じです。)、費用がかかりません。骨折した時のような急患の場合にも、NHSの病院なら比較的早く手当てしてくれるようなので、自分で海外旅行傷害保険のヘルプデスクに問い合わせられない場合でも大丈夫です。


いろいろ不都合や不具合もありますが、NHSに加入しておいて損はないと思います。